スティーブンセガールの憂鬱
先日、編集試写が珍しく深夜にまで及んでしまい、久々にタクシーで帰宅することとなった。
コロナ禍ということもあって、且つては行列を作っていたタクシーの車列はもうない。
どころか、タクシーがほとんど見当たらない。
なんとか一台のタクシーに乗り込み、行き先を告げる。
「埼玉県までお願いします。」
都内からだと結構な距離が稼げるため、この時点で大概のドライバーの方に喜んでもらえる。
今回のドライバーの方もすごく喜んでくれた。
「ありがとうございます!」
よほど喜んでくれたのか、その後もドライバーの方は饒舌に話しかけて来てくれる。
ただ、美容院にも気後れするくらい人見知りな僕は、はっきり言って喋らずに眠って帰りたいのだ。
でもそこは大人だ。何せこの時間は紛れもなくドライバーの方に命を預けているわけである。
少しでも失礼があってはいけないし、悪い気にはさせたくはない。しっかりと相槌を打つ。
不意に斜め前方を走る車が、ややふらついたような挙動を見せた。
「あっ!このやろ!」
ドライバーの語気が強くなる。
まずい。どうか手荒な真似だけはしないでください。
そう思った矢先、ドライバーが最近の事故事情についてを、とうとうと僕に語り始めた。
「最近はこういう奴が多いんですよ。スマホですよスマホ。ながら運転ってやつね。
この前もうちの同僚がこれが原因で当てられたって言ってましたよ。
こっちは過失がなくても、最終的に10:0になることはないですからね。悔しいですけど!
ほんとにスマホがこれだけ普及して便利っちゃ便利ですけど困ったもんですよね。」
その時、センターコンソールに置いてあったドライバーのスマホの着信音が車内に鳴り響いた。
「出てもいいですか?」
「え?」
僕は耳を疑った。さっきまであんなに『ながら運転』に憤ってた人なのに。。
スマホ社会に憂いを持っていた人なのに。。
「すぐ終わるんで大丈夫ですよ。あ、もしもし」
「あ…」
僕の相槌もそぞろに電話に出るドライバー。
電話越しの会話を聞く限り、どうやら馴染みの客の配車の依頼らしい。
ただ今はGo to 埼玉である。とはいえ馴染みの客を手放したくないドライバーの葛藤が垣間見える。
「別の人間を手配しますんで、ちょっとお待ちください。」
僕は目を疑った。
ドライバーは、電話を切ると今度は同僚に自ら電話を入れ始めたのである。
結局20分くらい、いろんなやりとりをスマホでしていたドライバー。
そう、トータル30分くらいかけて壮大なノリボケをしたドライバーがそこにはいた。
人間らしい人だなと思ったけど、
ちょっとだけ若干暴走特急に偶然乗り合わせてしまったスティーブンの気持ちがわかった気がした。
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