AirPods時々バイカー

何やら独り言を言っている男性が前方から歩いてくる。
その男性は、自分の足元を見るわけでも、周囲の景色を見るでもなく
どこか虚な目で独り言を言っている様子だった。今度は急に笑いだした。
白昼堂々、狂気に目覚めた男が、通り魔的な犯行を画策しながら歩いているのではないか。
あぁそんなことを思っているうちどんどん自分に近づいてくる。
僕は、急に襲いかかって来られた時のことを想定し、脳内シュミレーションを開始した。
「こう来たら、こう」「こう来られたら、こうする」
そんなことを脳内で繰り返しつつ、
両拳はグー。上体はやや屈めた姿勢で、そこから俊敏なフットワークを発揮できるように、
ややつま先に体重を乗せながらの歩行に切り替えた。
そして、すれ違うまさにその瞬間、、、すぐにそれが杞憂だったことに気づかされた。

そう、AirPodsだ。
AirPodsを使って電話越しの相手と会話をしていたのである。歩きながら。笑顔で。
こういう人に出会す度に僕は相手の耳元を確認するようになった。

それにしても最近割とこういう人を見かけるようになった気がする。
だって便利だもんAirPods。僕は持ってないけど。
でも前述の歩行通話with AirPodsは、昔のお母様たちが見たら、子どもに「見ちゃいけません」と言っちゃうレベルの行為なような気もする。

便利さと狂気を併せ持った道具。AirPods。
片方なくすだけで恐ろしいダメージを負ってしまうデリケートな高級イヤホン。AirPods。

欲しいな。

事務所脇の道路を一台のバイクが通り過ぎていく。
バイクに跨る人が、フルパワーでミスチルの「シーソーゲーム」を歌っている声が聞こえる。
あ、アレはエンジン音が自分の声をかき消してくれてると思ってるパターンだな。
その様子を見た街の人々が、次々と振り返っている。
そんなことには目もくれず、荒波を割るモーゼのように道路をひた走るフルパワーバイカー。

人間って奇妙で面白いな。

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