知らない老人に飴をもらう

歯医者からの帰り道、僕は一人街中をトボトボと歩いていた。
過去に目もあてられない程虫歯を抱えていた僕は、その反省を活かし今では定期検診に通っている。
もちろん日々の口内ケアも欠かしていない。
なので今日も順調に検診を終え、無事歯のクリーニングのみで終えることができた。
しかし歯のクリーニングをすると、なんか歯の裏がいつもと違う感触になる気がする。
その感触が気になって、僕はしばらくの間、舌で歯の裏側をコリコリとなぞってしまう。
そんな感じでコリコリさせながら歩いていた。

すると、前方から小洒落た老人が歩いてくるのが見えた。
頭にはツバを追らないタイプのグレーのベースボールキャップを被り、
小綺麗なダウンジャケットを羽織っている。
それとなくその老人を見ながら、「こんな風にオシャレに年を取りたいな」なんて思っていた。
コリコリ。
すると良く見ると老人がこちらを見ながら微笑んでいる。
コリコリ。
そしてまさにすれ違う瞬間、老人は微笑みながら無言で僕に何かを差し出してきた。

飴である。

老人は、個包装された飴を僕に差し出している。
蜂蜜金柑のど飴だ。

「オシャレな老人が、自分に飴??」
コリコリ。

何が起こったか分からず、混乱していると
老人はポケットからさらにもう一つ飴取り出し、尚無言で差し出してきた。
老人の手のひらには個包装された2つの飴が乗っている。
蜂蜜金柑のど飴が2個だ。

「あ、ダイジョウブです‥」
コリコリ。

咄嗟に僕は老人から差し出された飴を断ってしまった。
すると老人はどこか寂しそうな表情を浮かべ、
飴をまたポケットにしまい込んで、僕の前をそのまま通り過ぎていった。
周りを通り過ぎる人たちは、皆一様に僕をチラリと見やって通り過ぎていく。
コリコリ。

老人は何故僕に飴を差し出したのか。

コリコリ。
あ、飴舐めてると思われたのか。
老人よ、ご厚意を不遜な態度であしらってしまい、本当に申し訳ございませんでした。

P.S.
僕は、果実のど飴が好きです。

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